あらためて思う。肝臓とはなんと健気な臓器なことよ。

酒やめて、1255日。

沈黙の臓器が痛みを訴えるとき

飲酒時代、ときどき右の脇腹、つまり肝臓のあたりが痛いときがありました。でもこれはおかしな話で、肝臓は沈黙の臓器と言われています。痛みを感じる神経がないので、どんなに悪くなっても痛さを訴えないそうです。ただ、現実には肝臓あたりが痛い。そこで思うわけですよ。沈黙の臓器が沈黙してないんだからマジでやばいんやな、と。

医者にそのことを言ってみると、脂肪肝で肝臓が膨らんで周りの神経を圧迫してるのでしょうとのことでした。まさに、片腹痛くて脂肪肝状態です。試しにエコーを撮ってもらったら、おーギラギラしとるしとると医者はなんだかうれしそうに言ってましたね。画像を見せてもらったのですが、確かにテカリ具合が美味しそうでした(笑)。笑いごとじゃないですけど。

で、この脂肪肝がやがて肝硬変になるわけです。そして肝ガンへと進行します。ちなみに肝硬変から肝がんになった場合、がんの中でも極めてタチが悪くほとんど治療の見込みはないということは知ってました。なにせ家庭の医学などを結構熟読してましたし、ネットでも調べてましたから。酒飲みながら。

とにかく脂肪肝までなら、わりとよく聞くし、酒じゃなくてもメタボでもなったりすることも知っていたので、「ギラギラ」と聞いてどこか安心していたのも事実でした。

沈黙しつつ、数値で声を上げる肝臓……

ただし、その時点でもガンマGTPの数値は半端なくて最高で800くらいは行ってました。

そのガンマGTPですが、これこそ沈黙の臓器・肝臓の悲鳴です。ガンマGTPとは逸失酵素で、要は肝細胞の死骸みたいなものらしいのです。これが800とか、まさにうわあああああああああああ!です。

そう考えると、やっぱり肝臓は健気ですよ。痛みも訴えないで、しかし自らの細胞を酵素として放出しているのです。にも関わらず、そこにどんどんどんどん酒を注ぎ込みいじめていたわけですからねー。やれやれ。

そして、なによりも健気というか、たくましいのは、酒やめたら数か月で少なくとも数値上はまったく正常になってしまうところですよ。もっとも、中島らもさんの『今夜、すべてのバーで』に出てくるいけすかない赤河医師によれば、一度壊れた肝臓は、一見、元に戻ったようでも、それは壊れた陶器を修復したようなものらしいです。

まあそうだとしても脂肪肝までなら、なんとか戻るのです。しかしひとたび肝硬変まで行くと、もう再生しないそうです。その名の通り硬く変じてしまうのですよ。肝臓からすれば、頑張ったけどもう疲れたよ逝かせてもらうわの、ネロ&パトラッシュ状態です。

そう考えると、戻ってこれるか不可逆になってしまうかのターニングポイントは確かにあるようです。たぶん私は、そのほんのちょっと手前で戻ったのでしょう。なにせガンマGTP 800でしたから。

そしてそうしたこれまでの肝臓の健気ぶりに免じて、せいぜいこの先の人生ではいたわってやらんといかんなあとは思います。

ただ、まれにエリート肝臓というもの持ち主がいて、いくら飲んでもガンマGTPなどの数値も上がらず、肝臓がどんどん仕事をこなせてしまうらしいのですね。そういう人は肝臓は大丈夫でも、脳が先にやられてしまうわけです。

で、脳がやられるまで気づかないのもまた、肝臓が健気すぎるからです。それはそれでやっぱり怖いです。健気な肝臓の、沈黙の復讐のようにも感じてしまいます。

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