人類史上たぶん一度だけ、酒とお勉強が交差した時代があったという話。

酒やめて、1186日。

https://vosne-romanee.fr/?market=jp
仏ブルゴーニュのヴォーヌロマネ村のクリマ配置。左下に見えるロマネコンティの畑は学校の校庭ほどの広さ(狭さ?)だとか。行ったことはありませんが。

ワインブームの背景には、高感度高学歴女子たちの存在があった!?

90年代の終わりに突如、日本にワインブームというものが沸き起こりました。バブル崩壊後の不況が続くなか、新しいネタを探していた広告業界が仕掛けたものなのかもしれませんが、ワインに含まれるポリフェノールという成分が動脈硬化などの予防になる事実が知られるようになったこともベースにあると思われます。なにしろ酒を飲みながら健康になれるのですから、こんな美味しい話はないというわけです。

ただ私はワインブーム背景には、もう一つポイントがあったと思います。バブル崩壊によって職を失った高学歴女子たちが、その盛り上げに大きな役割を果していたということです。

彼女たちはリストラの対象になったりしたけれども、少なからぬ金額の退職金をもらい、その暇とお金を原資に勉強し、たとえばワインライターになったり、金満高齢者向けのツアー企画会社を立ち上げていきました。「仏ブルゴーニュ、美ワインと美食で人生をさらに美しくする旅・ロマネコンティのクリマも訪問!」といったような鼻持ちならない旅企画は、彼女たちにとってはお手のものでした(たぶん)。

そしてワインは、感性と知識の融合分野でもありました。それを味わう舌や鼻の感度が重要であり、なおかつお勉強も必要というわけですね。感性と知識の融合! なんとまあ、センスがよいと自認する高学歴女子たちが「我こそは」と胸を張りそうな分野ではありますまいか!

酒の世界から付加価値がどんどんなくなっていく……

実は私もその頃、雑誌にワインに関するコラムを書いていました(笑)。

今考えるとお恥ずかしい限りなのですが、当時はそうした人材の需要が大きく、私でも務まったのでした。

たまたま知り合いの編集者に車で家まで送ってもらっていた際、ページ埋めなきゃなんないし何でもいいからうちの本に書いてくださいよお、と、非常に失礼かつ雑なオファーのされ方をし、そのとき私は例によって酒が飲みたかったので、じゃあ酒、とくにワインについてなら、ということでお受けしたのでした。

ワインであれば、単に飲むだけ、楽しむだけじゃなく、その周辺に書くことがいろいろあるととっさに判断したのですね。

私は子どもの頃から、たとえば算数や数学のひらめきを必要とするような問題はまったくもってダメだったのですが、記憶力だけは無駄に良くて、電車の駅名を覚えるなんてのは得意中の得意、というよりも唯一の取り柄(?)でした。

ですからシャトーやドメーヌの名前や格付け、さらにはヴォーヌロマネ村のクリマはどのような配置になっているのか、なんてことは、わりにすんなり頭に入ってくるのです(上地図参照)。そしてそうしたお勉強知識を生かし、あることないこと書いていた次第です。もちろん高価なワインは飲めないので、そのようなオタクっぽい知識で感性と経験を補うというやり方ですね。

思えば酒がお勉強ネタになっていて、しかもそれが原稿料になったというのは、今考えれば、不況とはいえ本当にいい時代でしたよ。

しかしそのような「感性と知識の融合(?)」が、酒の世界において、それ以降どんどん消えていったのです。そして行き着くところの象徴としてストロングゼロがあったりします。

今は、酒にまつわるさまざまな文化(「お勉強」もその一局面ですね)が限りなく薄くなり、単純に酔うためだけのものになっている。酒の世界もなんだかつまらないものになってきたのかもしれません。付帯的な魅力がないのですね。

そう考えると、そこから離れていくのも意味があるといえばあるのかなあ、と。「酒」がコンテンツとしての魅力を失い、たとえば原稿料のようなかたちで利益を生んでくれるものじゃなくなってきている。だから、積極的にお付き合いしなくてもいいんじゃないか、とまあ、かように考える次第でもあるのです。断酒したから言えることですが。

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