飲んでいないときは土のなかのセミ? そんな状態はもうゴメンです。

酒やめて、1142日。

今は亡き景山民夫氏の作品に『トラブルバスター』というものがあります。かれこれ30年以上も前の作品ですが、映画(主演・鹿賀丈史)にもなったので覚えている方も多いかもしれません。

退社後、ようやく地上に出てミンミン鳴くことができる!

雑誌『ブルータス』に連載されていたハードボイルド仕立ての連作短編で(後に長編も二本書き下ろしで書かれる)、テレビ局のダークサイドなゴタゴタを、番組をコケさせすぎてディレクターから局内何でも屋に降格させられた主人公の宇賀神邦彦が解決していくお話です。

この作品と、やはり景山作品で雑誌『宝島』に連載されていた『極楽TV』によって、当時はあまりよく知られてなかったテレビの内幕が広く一般にも認知されるようになりました。たとえば、それよりも少し前に放送され人気番組だった『クイズダービー』で、驚異的な回答率を誇っていた漫画家のはらたいらが、実は問題を事前に教えてもらっていた疑惑もこの作品によって呈示されました。景山民夫氏はクイズダービーの放送作家でしたから説得力があった、というよりも事実だったのでしょう。内幕暴露作品でもあったのです。

というわけで、そういうところも含めて非常に面白い作品なのですが、主人公で探偵役を務める宇賀神邦彦はアル中です(笑)。少なくとも今の定義では、完全にアル中認定されるでしょう。

というのは宇賀神は、退社時間を迎えキンキンに冷えた生ビールを飲むことだけを目標に一日を生きているからです。宇賀神は思います。俺が社にいる時間は、セミが土のなかにいる時間と同じだ。退社時間を迎え、ようやく地上に出てミンミン鳴くことができる、と。

これねー、めちゃくちゃよくわかるんですよ。『ブルータス』連載当時、私も会社員でした。そして宇賀神邦彦とまったく同じような気持ちで会社勤めしていたのです。それはフリーランスになってからも同じでした。仕事をしている時間は、土のなかのセミだったのですね。

でもですね、考えてみればこれってめちゃ不幸な話なんですよ。仕事を終わらせて酒を飲むという「目標」があるが故に、仕事をしている時間が土のなかの時間になってしまう。つまらないものになるのです。当時はなにしろ頭のなかがビールビールビールビールビールだったのでそんなことに思いいたらなかったのですが、今考えるとやはり不幸なことだったのかなあ、と。

仕事をしている時間も「地上の時間」になる!?

なぜこんな心持ちになるかというと、もちろん断酒したことがベースにあるのですが、ときどき、あー俺って何のために仕事してるんだろうと思うときがあるからです。つまり今は、仕事が終わってもゴールがない。ビールを飲むという目標がない。

では、だからといって仕事をする気がしなくなるかというと、正直、断酒したばかりの頃はそうでした(笑)。ただ何ヶ月か経つと、もう身体の方がビールがないということを覚えていくのです。そして良い意味での諦めができます。これもいつも書いていて恐縮ですが、酒をやめると執着心というものが非常に薄くなります。もちろんそれは酒に対しても、です。なので仕事にしても、早く終わらせて早く飲みたいではなく、もうどうせそういうものがないのだから淡々とやるしかねーなと思って、淡々とやっていきます。

で、驚いたことに、淡々とやってるとその淡々とやってる行為がご褒美に感じられたりもするのです(参考「酒やめて、仕事中にワーキングハイのようなものを感じられるという話」)。ビールビールビールのときはなかったワーキングハイを感じられると言っていいかもしれません。脳は厄介である半面便利なもので、ビールがないと諦めれば、そのうちに仕事をしながらでも若干の快楽物質を出してくれるようになります。

そうすると不思議なことに、飲んでいた時代には土のなかだと思っていた時間が「地上」に思えてくるんですよ。飲んだときのようなめくるめくような高揚感こそありませんが、ただ少なくとも土のなかではなく、普通に木に止まってミンミン鳴いているような状態になります。これはこれで幸せなことなのかなあ、とも思えたりするのです。

繰り返しますが、飲酒という目標があったからこそ、普段の時間が不幸になっていた。そういう側面はあると思いますねー。普段の時間を幸せにしたければ、断酒、ですね(笑)。

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