酒やめて、1188日。
ロック界の大御所エルトン・ジョンの自伝映画『ロケットマン』は、依存症セラピーのシーンから始まります。ここでどんな少年時代だったのかと訊かれ、回想していくという展開です。
『ロケットマン』を観ると数々のヒット曲の本当の意味がわかる!
『ロケットマン』はミュージカル仕立てですが、冒頭の曲は「Bitch is Back」です。邦題は「あばずれさんのお帰り」で、これは私が中学生の頃にヒットした曲ですね。ですからかれこれ40年以上前です。ただしこの「Bitch=あばずれさん」がエルトン・ジョン自身のことだったとは、この映画で初めて知りました。
こんなふうに、映画でエルトン・ジョンの生い立ちや生きざまが明らかにされるにつれ、彼の人生のこんなところと重なっていたんだということが判明した曲が他にも数多くあります。
映画には取り上げられていませんが、1975年に大ヒットした「Someone Saved My Life Tonight(YouTube)」もそうです。邦題は「僕を救ったプリマドンナ」ですね。
これはファンの間では「大間違い邦題」として知られています。「僕(=エルトン・ジョン)」がプリマドンナによって救われたのではなく、誰か(=Someone)が僕を“プリマドンナ”から救ってくれたという歌詞内容やん邦題正反対やんてなことで、当時もプチ話題になりました。確か、みのもんたさんと高橋小枝子さんもラジオ番組でそんなことを話していたのを覚えています。
ちなみに当時はデタラメな邦題が横行していて「ハイスクールはダンステリア(=Girls Just Want to Have Fun)(YouTube)」(シンディ・ローバー)が有名ですが、それ以上に笑えるのはディスコの定番「チャンタでいこう!(YouTube)」(マイケル・ゼーガー・バンド)でしょう。原題は「Let’s All Chant」であり、「ご唱和よろしく」程度の意味なのでしょうが、なぜか麻雀役の「チャンタ」に転化し、レコードジャケットには黒鉄ヒロシさんの麻雀のイラストが描かれていたのでした。しかもその役は「チャンタ」ではなく「大三元字一色」というオチまでついていました(下参照)。
と、それはともかく、「僕を救ったプリマドンナ」いや「Someone Saved My Life Tonight」です。
“プリマドンナ”は、エルトン・ジョンが当時、結婚しそうになっていた女性です。エルトンはゲイでありながらも、しかし女性と結婚しなければいけないという強迫観念のようなものがあり、そこでその女性と結婚しようとしたところ、シュガー・ベア(ミュージシャンでゲイのロング・ジョン・ボルドリー=Someone)の助言で救われたということですね。
エルトン・ジョンは、「Thank God my music is still alive」と、この曲の中で歌っています。
そして実は「私がそのプリマドンナだったのよ」という女性が最近になって現われまして、ファンの間ではちょっとした話題になりました。ちなみにこの人も『ロケットマン』に出てきますが、かの“プリマドンナ”とは知りませんでしたわ(下ツイッター参照。うーん、プリマドンナ、ですか……)。
'I was devastated'
Elton John's ex-fiancé Linda Hannon hasn't heard from the singer since he broke off their engagement weeks before their wedding in 1970.
Their relationship does not appear from the upcoming Rocketman biopic. pic.twitter.com/h63jBcyaag
— Good Morning Britain (@GMB) May 22, 2019
このあたりのことは、映画評論家の町田智弘さんが詳しく解説なさっています(参照「エルトン・ジョンの歌詞と映画『ロケットマン』を語る」)。
ただエルトンが救われたのは、件のプリマドンナからだけでなく、当時エルトンを取り巻いていた様々な問題から救われた意味であることが、映画『ロケットマン』を観ると、とてもよくわかるのです。
エルトンさんの「ぐじゃぐじゃ」に比べれば……
よく知られているように、エルトン・ジョンの曲の歌詞はバーニー・トーピンという作詞家が書いています(作曲がエルトン・ジョン)。そして『ロケットマン』では、そのバーニーとの出会いと友情について描かれます。バーニーがよく描かれ過ぎといった批評もあるようですが、まあ大筋においてバーニーはエルトンを支えていくわけです。
そして当然ながら「Someone Saved My Life Tonight」もバーニーの手によるものですから、エルトンに対して、今の状態ではだめだそこから抜け出せというメッセージを込めていることが、『ロケットマン』を観るとわかるのです。個人的な解釈ですが(笑)。
「今の状態」にはむろん酒が含まれます。『ロケットマン』で描かれるエルトン・ジョンは華やかなスターでありながら、その人生の裏側は酒と薬物と劣等感でぐじゃぐじゃなのです。
そして若干ネタバレになりますが、映画の最後にはエルトン・ジョンが酒をやめてもう28年になるということが語られます。去年の映画なので、今年だと断酒29年なのでしょうか。今年になってからのNHKのBSでエルトンのインタビュー番組がありましたが、そこでも酒はやめている、そしてその代わり買い物中毒だみたいなことを話していましたね。
【以下、本格的な映画のネタバレ】
エルトン・ジョンはスターである一方で酒とドラッグに溺れていました。その遠因は、彼の生い立ちにありました。父母は夫婦仲が悪く、さらには父親母親ともエルトン少年には無関心でした。そうしたなかでエルトンは男性に興味を抱き、しかしやがてマネージャーであるところの恋人に裏切られますが、エルトンの印税は永遠に彼に流れるような契約になっている(この件について語っている曲はいくつかあります)といったことが映画では描かれます。しかしそれでも、スターであり続けなくてはならない、ステージをこなさなければならない苦悩や葛藤の中、酒や薬物に溺れていくわけです。
【以上、ネタバレ】
『ロケットマン』を観ると、いやそりゃ酒も飲みたくなるわと本当に思いますよ。エルトン大先輩の苦しみに比べたら、私の酒が飲みたい欲求はなんとちっぽけなものだったかということもわかりました。
そしてその大先輩が酒をやめられたのだから、我々においてをや、ということですよね。
さて、エルトン大先輩は若いときから「薄毛」で悩んでいて、何百万もかけて植毛したなんていうことも以前話題になりました。現在の様子を見ると薄毛の進行は完全に止まっており、もちろん植毛効果かもしれませんが、酒をやめている(=心身ともに健康である)からという理由もあるのではないかと、まあ断酒者の一人としては都合よく考えたいわけであります。
さらに断酒者として都合のいい話をさせていただければ、エルトンのようなショービズ界のセレブにとっては、酒を飲まないは今や一つのステイタスだとか。そのあたりは、断酒友のぽんちゃんがブログに書いてますので、ご参照いただければと思います(「ファビュラスな断酒仲間♪」)。
また私も以前、AKBの峯岸みなみさんの断酒について書かせていただきました(参考「アイドルにも断酒ムーヴメント!? AKBの峯岸みなみさんが先陣を切ったか」)。あるいは日本でも、スターと呼ばれる人たちの間で断酒ムーヴメントが起きるかもしれませんね。