酒やめて、2997日
「記憶などというものは、何と頼りないものであることか!」
先月刊行された島田荘司先生の最新作『伊根の龍神』を図書館で予約してきました。私は島田先生の40年来のファンであり、なのに買わずに図書館というのも失礼な話かもしれませんが、今のミニマムライフのやり方でもあります。ちなみに『伊根の龍神』は前世紀から出る出ると言われていて、やっとキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!ですわ。
思えばその前世紀では島田先生の新刊が出ると、当時、終夜営業していた六本木の青山ブックセンターに発売日前夜に行って、日付けが変わると同時に購入したりもしていました。そこからすると、本当に生活に対する考え方が変わりました(大げさ)。
さて島田先生の名作は数々あれど、やはり本命は名探偵・御手洗潔が活躍するシリーズでしょう。そしてこのシリーズの時系列的な第一弾に当たるのが『異邦の騎士』です。後に御手洗の幼少時代や大学時代の活躍譚も本になったので今では第一弾とは言えないのですが、ただ、シリーズ全体の起点となる重要な作品です。
『異邦の騎士』はむろんミステリなのですが、青春小説と言っていい物語の仕立てになっていて、それだけに胸をぎゅっとは鷲掴みにされるようなある種の切なさがあり(この「切なさ」は島田小説に共通するもので、それが魅力の源泉だが、とくにこの作品は前面に出ている)ミタラニアン(御手洗潔オタ)の間で非常に人気が高いのですね。
で、『異邦の騎士』は記憶喪失の男の話から始まり、そこにはこのような一節があります。
思えば記憶などというものは、何と頼りないものであることか! たとえば握って絶対話すまいとするコーラのビンとか、そんなふうにこれを扱うことはできないのだ。ビンを落とすまいと強く握っていればいい。けれど記憶はそうはいかない。向こうが去っていきたいと思えばこちらはどうすることもできない。向こうにその気がないものと勝手に思い込んで、いつも安心しているだけなのだ。
(引用前掲書・改行などは引用者都合)
記憶、つまり脳の機能ですね。そして名探偵・御手洗潔は『異邦の騎士』では占星術師として登場するのですが、シリーズが進むと脳科学の大学教授となり、占星術師は世をしのぶ仮の姿だったという後付け設定がなされます。
このことからもわかるように、島田先生は脳科学について興味と造詣があり、それ自体が謎解きになっている作品もあります。作品名を挙げるとネタバレになってしまうので自粛(?)しますが、ただ、この作品の中で脳というものの特性について触れており、作中の言葉を借りれば「脳は弁当箱の中の豆腐のよう」。つまり非常にデリケートであり外部刺激によって変容してしまうということですね。が、その変容のメカニズムは医学的には明らかになっていないし、ましてや自分ではわからない。
これ以上、脳を劣化させるわけにはいかないのだ
さて、このブログでも以前、脳梗塞の影響について書かせていただいております(参考「酒はちょっとずつ人生を殺していく」)。脳梗塞で脳機能が低下したという例は数多くあります。そしてブログでも触れた通り、なんとなく仕事ができなくなっちゃったみたいな例もあり、そういう場合は周囲の理解を得にくいのです。
そのような脳の機能障害の行きつくところは認知症でしょう。ただ私たち世代は死ぬまで働けという状況もありますし、死ぬまで社会と関わりを持たなきゃいけない。死ぬまで脳を健康に保つことがタスクです。現在のリタイヤ世代は脳梗塞になる自由もあれば、脳機能を低下させる自由、認知症になる自由もあった。社会保障が十分なものがありましたから。しかし、我々世代はそうはいかない。
また、たとえば学校時代にサッカーでヘディングしまくった影響が老後に出るということも徐々に知られてきています。昔から頭を打つと頭が悪くなるわよなどと世のおかんは言ってましたが、それって結構、真実に近かったんですね。
まあ実際、私などでも脳の機能低下を感じることはありますよ。メールを打った後、あれ、送信ってどうするんだっけ? とハタとなったりもします。情けないを通り越して怖いです。スマホとPCではGメールの送信ボタンの仕様が異なることもありますがそれは言い訳であり、加齢と長年の飲酒の報いでしょう。
そのような状況の中、もともと他人様に比べてレベルが低く、しかも長年の飲酒でやられている脳の機能を、もうこれ以上低下させるわけにはいかないのです。
ただし脳というものは『異邦の騎士』に出てくる記憶喪失の男の感慨のごとく、自分のものであって、自分のものでないといった側面がある。
となれば、やっぱりできる範囲で機能低下させると思われる要因を取り除いていく必要があるでしょう。それは、さすがに今さらサッカーのヘディングはしないでしょうから、やっぱり一番は酒ということになります。そしてこうしたところにも酒を飲まない重要性があるのではないかと勝手に考える次第でございます。
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